東京・六本木の国立新美術館で、日本では10年ぶり、4回目となるカルティエの展示会が開催されています。
カルティエはこれまでにも、ニューヨークのメトロポリタン美術館、ロンドンの大英博物館など世界中の名だたる美術館で、本展を含め35回もの展覧会を開催しており、これは数ある歴史あるメゾンの中でも特筆すべきことです。これまで開催された展示は1860年代以降に製作された歴史的マスターピース、いわゆる“カルティエコレクション”の収蔵作品が対象でしたが、今回はカルティエの1970年代以降の現代作品に焦点が当てられています。モダンからコンテンポラリーに至るまでの作品をデザインや技術の面から俯瞰し、紐解いていくという世界初の試みです。
さらに、約3年をかけて準備されたという新素材研究所による会場構成も本展の見どころ。今回はそんなカルティエ展の鑑賞レポートをお送りいたします。腕時計の展示自体は少ないのですが、腕時計専門店としてはそこに触れずにはいられない歴史的な重要なタイムピースも展示されており、なるべくフォーカスして筆を割いていきたいと思います。
そして記事の最後には当店・ベティーロードで手に入る展示級のカルティエ作品をご紹介しますので、ぜひ最後までお付き合いください!
企画展 カルティエ、時の結晶
会期:2019年10月1日~12月16日
会場:国立新美術館 企画展示室 2E
主催:国立新美術館、日本経済新聞社
特別協力:カルティエ
会場構成:新素材研究所
観覧料(税込):一般1,600円 大学生1,200円 高校生800円、中学生以下は入場無料
雲1つない晴天ながら冷たい空気が肌を刺す中、東京・六本木の国立新美術館へ到着。黒川紀章氏設計の美術館としては最後のものとなる全面ガラス張りのモダンな外観が姿を現します。
大小さまざまな企画展が行われている中、エスカレーターに乗って2階のカルティエ、時の結晶展へ。燦燦と光の降りそそぐ館内から一転、真っ暗な世界へ暗転した通路を進むと、行く手にあかりが灯り、大きな古い柱時計がその姿を浮かび上がらせます。
それは1908年に作られたという大きな古時計。100年以上の時を経たこの時計は、その機械仕掛けの中に新たな細工を施され、時計の針が逆行して静かに時を巻き戻していきます。とはいえ、単にカルティエの作品を年代順に遡っていくような展示ではないことは、序盤からすぐ明らかになるのです。
採石場の洞窟からインスピレーションを得たという広い空間が突如目の前にひらけると、8メートルの高い天井から続く12本の光る柱が、この神秘的な空間に静かに佇みます。この光の柱は、天井から円柱状に垂らされたファブリックによるもの。古代の織物に見られる羅(ら)の技法を取り入れ織り上げられたという透明感のあるこの布地は、トップライトから降り注ぐ光を内外に取り込みながら微妙な視覚的な揺らぎを生み、光の表情に深みを与えています。
この円柱状のカーテンの中に、カルティエのメゾンを象徴するミステリークロックとプリズムクロックが12点、文字盤に配される数字を象徴するように展示されています。透明な水晶の中に、まるで魔法の力で宙に浮いているかのように見える時計の長針と短針が不可思議なミステリークロック。そして見る者が正面に来た時だけ文字盤が浮かび上がるプリズムクロックです。
最初にこのカルティエの神技を目の当たりにした人々はどれほど驚き、その謎を解き明かそうとしたことでしょう。クロックに施されたエキゾティックな装飾は、まだ見ぬ神秘的な異国への憧憬とともに、ミステリークロックの不可思議性を高める役割を果たしたそうです。この序章の“時の間”は、人々に驚きと感銘を与え、常に新しいインスピレーションや体験を授け続ける存在、それがカルティエというブランドそのものであることを示す、象徴的なプロローグとなっています。
時の間を抜けると、棺を模したという檜で作られた展示ケースが整然と立ち並ぶ展示エリアが現れます。ここからが第一章である「色と素材のトランスフォーメーション」の始まり。この展示エリアでは、次に示す異なる4つのアプローチから、カルティエのデザインの世界を俯瞰していきます。
仄かに漂う檜の心を落ち着かせるような香り。展示される芸術的な作品に見入る観覧者たちから漏れる嘆息によって、かえって気づかされる会場の静寂が、身体に染み渡っていくような厳かな雰囲気です。ここでは腕時計の展示を中心に解説を試みたいと思います。
それまで工業用品に用いられる金属だったプラチナを、世界で初めてジュエリーに使用したのはカルティエでした。
18Kゴールドよりも硬度の高いプラチナを用いることで、宝石そのものが宙に浮いているかのごとく繊細で軽やかなジュエリーを実現し、宝石そのものを主役としたデザインを可能としたことは、ジュエリー史に大きな転機をもたらしました。
ここではプラチナとダイヤモンドを用いたガーランドスタイルの美しいジュエリーや、カルティエらしいスリーゴールド(トリニティに代表される、ホワイトゴールド、イエローゴールド、ピンクゴールド素材を取り入れたデザイン)リングやブレスレット、華麗なる彫金技術の匠の技など、メタル素材への先進的・意欲的なアプローチや熟練した職人の技に焦点を当てた展示を愉しむことができます。
このエリアの一角に、サントス ドゥ カルティエ ウォッチ(以降、サントス)が展示されていました。サントスといえば3代目ルイ・カルティエが、友人である飛行冒険家アルベルト・サントス・デュモンのためにデザインした、世界初の腕時計として有名。
このサントスは、1978年にある転機を迎えることになります。それは、70年代に入って誕生し、大きな成功を収めたオーデマ ピゲのロイヤルオークやパテック フィリップのノーチラスなど、ステンレススチールを使用したハイエンドなラグジュアリースポーツウォッチという新しいジャンルの台頭です。
カルティエもその流れを汲み、それまでプラチナやゴールドなどの素材が使用され、どちらかというとクラシカルなイメージだったサントスを、ステンレスを用いたスポーティなモデルとして生まれ変わらせます。
ステンレススチール×イエローゴールドのコンビネーションが画期的だった当時のサントス ドゥ カルティエ ウォッチ
同時に、カルティエは当時としては画期的だったステンレススチールとゴールドのコンビネーションモデルのサントスを発表し、より高級感を高めることに成功しました。こうして1980年代にかけて、ステンレス×ゴールドのコンビモデルは大きな人気を博していくことになるのです。
展示されていたのは1981年製のステンレス×イエローゴールドのコンビモデル。長く使用されてきたのか、擦れや傷がついたそのままの姿のサントスであったことがとても印象的でした。
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腕時計の展示はありませんでしたが、カルティエの職人たちによる優れた技術、特に「グリプティック」と呼ばれる硬石彫刻の技を施されたジュエリーを堪能することができます。今や伝承を危ぶまれる貴重な技術なのだそうです。
本展第三章の展示より カルティエ オウムのネックレス 2001年(個人蔵)
サファイヤやエメラルドに花やリーフの彫刻が施されているのが見てとれる
エナメルや象嵌(マルケトリ)などの高度な職人技を駆使した作品群を鑑賞するエリア。腕時計も数点展示されていました。ちなみにこちらは展示品ではありませんが、当店で以前取り扱った、カルティエ・トーチュのエナメルコレクション。
カルティエ トーチュLM エナメルコレクション ドラゴン Ref.WA506651
展示の中からはバロンブルー ドゥ カルティエ ウォッチに焦点を当てましょう。
形はおなじみのバロンブルーではありますが、オートオルロジュリー(最高クラスの芸術性と時計製造技術が融合した最上級コレクション)であるのか、文字盤は特別な装飾が施されています。鮮やかなグリーン、ターコイズブルー、イエローの羽に彩られたオウムの横顔が全面にデザインされており、くちばしに用いられた漆黒のオニキスの艶やかな質感が見事な対比を描いています。立体的に表現されたオウムの羽の質感は、なんとバラの花びらを用いたというフローラル・マルケトリ。2014年と比較的近年の作品だそうです。
こちらも腕時計の展示はありません。
このエリアではカルティエ独特の豊かな配色を絢爛豪華なジュエリーの中に見つけ、時代とともに変化する色彩の変遷を追うことができます。インドのマハラジャたちのジュエリーから着想を得て、色鮮やかな宝石にリーフや花、果実を思わせる彫刻を施したボリューム感たっぷりのジュエリーの作品群、トゥッティフルッティ(フルーツづくしの意味)も必見です。
続いてチャプター2へ。地底の奥深くで、気の遠くなるような時をかけて純化されていく、まさに“時の結晶”である宝石たち。ここは悠久の時を紡ぐ原石たちの居場所を疑似体験するかのような神秘的な空間に作り上げられています。
会場を構成するのは栃木県を原産とする無数の大谷石のブロック。かつてフランク・ロイド・ライトにより設計された、伝説的な帝国ホテル・ライト館に使用されていたことでも有名な石で、2000万年前に噴火した海底火山の堆積物が海中で固まったものだそうです。自然の風合い豊かな大谷石の石柱と、ジュエリーが収まるシンプルで人工的なケースが現代建築のように複雑に組み合わされた展示は有機的にも無機質にも感じられ、一種独特な空気を醸し出しています。
カルティエの類まれなる技術力を体感した第一章に続き、第二章ではカルティエの“デザイン”に焦点をあてた考察を見ることができます。カルティエのジュエリーのフォルムに宿る視覚的な新しさについて、「球体」「オプティック(視覚的効果)」「アクシデント(意図された、または偶然によるカオス)」「日常の中にある美(インダストリアルモチーフ)」など、さまざまなキーワードにわけて迫っていきます。
腕時計も、キーワードに沿って20点ほどが展示されていました。ここではいくつか気になったモデルへとフォーカスすることにしましょう。
まずはベニュワール・イプノーズウォッチ。ベニュワールもイプノーズもカルティエのレディースウォッチコレクションにラインアップされていますが、このイプノーズが2016年に新コレクションとして発表される以前にベニュワールの中でイプノーズが作られていたことがあるということで、今回初めて目の当たりにすることができました。
2016年に発表されたカルティエのイプノーズ。こちらはRef.WJHY0003
いうなれば、ベニュワールのオーバルを横向きにして、左右非対称にらせんを描くような形で2重に重なりあった斬新な時計。イプノーズはフランス語で幻惑させる(HYPNOSE)という意味で、カルティエの求める生き生きとしたエッセンシャルラインを体現するかのようなデザインでした。
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1912年製のサントス・デュモンウォッチも展示されていました。サントスが一般に販売されたのは1911年ですから、腕時計黎明期の姿を今に伝える、大変貴重な展示です。基本的なデザインは現在に伝わる通りで、カルティエの時計を構成するために選び抜かれたケースのライン、フォルムの完成度の高さを改めて思い知ります。当時は現在のような剣型針ではなくブレゲ針を採用していたのが唯一の大きな違いでしょうか。
1920年代の大変希少なサントス・デュモン。当時はクラシカルなブレゲ針を採用していた
同じく1917年に誕生し、1919年に商品化された経緯をもつ1920年製のタンクも並んでいます。プラチナ製で、こちらも含め、ほかにも展示のあったトーチュやトノーなど1920年代のヴィンテージウォッチは一様にブレゲ針が搭載されていました。
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ある時カルティエの顧客の一人が、自動車に轢かれてしまった腕時計をカルティエの工房に持ち込みます。このアクシデントでさえ創作へとつなげてしまったという、独創性と遊び心溢れるモデルであるクラッシュウォッチ。
クラッシュウォッチ Ref.WJ306016。流通当時の参考定価はおよそ650万円ほどといわれる
1967年に発表されたこのクラッシュウォッチ以降「カルティエ リーブル」 コレクションとしてシリーズ化され、モデルとなる時計を変えながら連綿と自由奔放な創造性や遊び心を追求しているのも面白いポイントです。タンククラッシュやディアゴナルなども同じエリアに展示されていました。
タンククラッシュ Ref.WJ303550
ディアゴナル Ref.WJ302671
さて、ここで少し気分を変えて、当店でも販売実績のあるジュエリーがいくつか展示されていたのでまとめて取り上げてみたいと思います。
ラブブレスレット。「愛の絆」や「束縛」がテーマというだけあって、付属する専用のスクリュードライバーがないと着脱できない
まずは定番のラブブレスレット。定番であるがゆえにその斬新なデザインについては素通りしてしまいがちですが、インダストリアルモチーフを取り入れた自由で型破りなデザインはカルティエの得意とするところなのです。
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ジュストアンクルブレスレット Ref.B6048117
こちらもわかりやすく釘をかたどったデザインが斬新なジュストアンクルシリーズ。展示されていたのは1971年製のネイルブレスレットでしたが、それを原型としていると思われます。
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粒状のゴールドが連なったパリヌーベルバーグリングも展示されていました。カルティエが追求するジュエリーの「動き」というテーマに対する、カルティエの1つの解となる作品。
こちらは視覚的な錯覚や素材のコントラストに面白みのあるリング。透明な水晶の奥にセットされたダイヤモンドが視覚的な歪みを伴って輝くのに、決して肉眼でダイヤモンドそのものを直接見ることができないというデザインに惹きつけられます。
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第三章からは一部コーナーを除いてカメラでの撮影が許されているため、多くの方が興奮気味にスマートフォンをかざしていました。
カルティエのデザインの源泉にある広く世界に向けられた好奇心から着想を得た作品群は、その1つ1つの作品の陰にきっと膨大な情報収集やデッサン、技術的な試行錯誤が費やされたに違いないと感じさせる恐ろしいほどの完成度の高さ。これだけのことを成しえるジュエリーメゾンは、カルティエ以外いったい他にあるでしょうか?
会場の一部には“ワンワールドケース”と名付けられた彗星の軌跡のような弧を描いた左官仕上げのケースが中央に鎮座し、その中に陳列された異国の文化を取り入れ独自に昇華した作品の世界を“神の視点”で俯瞰して覗き込むという仕掛けになっています。
会場風景。オーバルの軌跡を描くワンワールドケース
観覧者は神の視点で、ケースの内に広がる異国情緒あふれる世界観を俯瞰していく
キメラブレスレット、装身具用トレイ(個人蔵ほか)
中国風の時計付きデスクセット 1931年(アルビオンアートコレクション蔵)
“日本風”にインスピレーションを得たジュエリーの世界
浮世絵に描かれる梅の枝がモチーフとなったブレスレット 1925年(カルティエ ニューヨーク)
さて、会場で最も熱い視線を集めていた展示は、もしかしたら次の2つのネックレスかもしれません。
「クロコダイル」ネックレス 1975年 マリア・フェリックスによるスペシャルオーダーにより制作
2匹のワニを組み合わせることでネックレスになるほか、単体でブローチにもなるギミックも。内側の足はネックレスとして着用した時に首を傷つけないよう、折りたたんでいるかのように見えるものと取り換えることが可能
「スネーク」ネックレス 1968年 マリア・フェリックスによるスペシャルオーダーにより制作
2473個(計178.21カラット)もの眩いダイヤモンドを使用している
マリア・フェリックス(1914-2002年)という女性をご存知でしょうか?1950年代に活躍したメキシコの国民的人気女優で、この2つのネックレスは彼女がカルティエにスペシャルオーダーしたもの。
ラテン系のファム・ファタル(運命の女)の典型であったこのメキシコの大女優は、無類の爬虫類好きとしても知られていました。特注したジュエリーを本物のワニそっくりに創ってもらうため、パリのカルティエ本店へペットとして飼っていたベビークロコダイルを連れて行ったという逸話も残っています。
制作を依頼した彼女も、オーダーを受けこの素晴らしいジュエリーを創り上げたカルティエも、とにかくすごい情熱ですよね!ちなみに、カルティエがそんなマリア・フェリックスへのオマージュとして捧げたウォッチコレクションが「ラドーニャ」です。
ラドーニャ Ref.W640020H
ラドーニャとは“貴婦人”という意味のフランス語で、左右非対称に連なる美しくも個性的なブレスレットのデザインは、マリアの愛したワニのうろこをモチーフにしているのです。
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ここで、展示会の説明書きにはいっさい触れられていませんが、あるエピソードを絡めて特別に“パンテール”について考察してみましょう。
第三章の中で撮影不可のエリア、そこで一際大きく扱われていたのが、カルティエ永遠のアイコンともいえる“パンテール”。
パンテールとはフランス語で“豹(パンサー)”を意味します。初めてカルティエがその作品に豹のモチーフを登場させたのは1914年のこと。シンプルなオニキスのスポッツモチーフ(豹の模様)としてデザインされた、カルティエ初のパンテールパターンウォッチがエリアの冒頭で展示されます。
ですが、パンテールがカルティエを象徴するアイコンとして存在感を顕すのはもう少し後の時代。パンテールモチーフが世に生み出され、カルティエのタイムレスな象徴となった陰には、ある2人の女性と2つの愛の物語が存在するのです。
まず1人目はジャンヌ・トゥーサン(1887-1976年)。彼女はカルティエの高級宝飾部門の全権を委任されるほどの並外れた才能とセンスを持ち合わせた、メゾンにとって最も重要な人物の1人でした。ジャンヌ・トゥーサンは早くから”自然回帰”の時代がくることを予見し、1930年代後半にはさまざまな自然モチーフのジュエリーの製作に取り組んでいます。その中で最も力を入れていたのがパンテール(豹)モチーフでした。
そんな彼女の作品を愛し、社交界を中心にジャンヌの手掛けた動物モチーフのジュエリーを広める役割を果たしたもう1人の女性、それがウィンザー公爵夫人(1896-1986年)です。ある日、公爵夫人は自身の所有する宝石をカルティエの工房に持ち込み、ジャンヌ・トゥーサンの前に並べたといいます。並べられた見事なサファイヤやルビー、そしてエメラルドといった宝石を目の当たりにしたジャンヌ・トゥーサンは、すぐに色彩豊かな鳥のモチーフのブローチのイメージが脳裏に浮かび、制作にかかりました。仕上がったブローチを目にした公爵夫人はたちどころに心を奪われたといいます。
ジャンヌ・トゥーサンによってウィンザー公爵夫人のために手掛けられた有名な「フラミンゴ」ブローチ 1940年
ウィンザー侯爵夫人といえば「王冠を賭けた恋」で有名な女性。当時イギリスの王太子であったエドワード8世とお互いに配偶者がある身でありながら恋に落ち、ついにはエドワード8世に王位を退位させ、最終的にはウィンザー公とその公爵夫人となって生涯仲睦まじく過ごした2人の大恋愛は、20世紀最大のロマンスとして今も語り継がれています。
王冠を捨ててまで純粋な愛を貫いたウィンザー公は、夫人にたくさんのジュエリーを贈りました。ジャンヌ・トゥーサンの手掛けたパンテールモチーフのジュエリーは特にお気に入りで、中でも有名なパンテールクリップブローチを本展でも見ることができます。150カラットを超えるカシミール産サファイアのカボションの上に戯れる、写実的かつ躍動的なパンテールが組み合わされたこのブローチは、公爵夫人を取り巻く華やかな社交界でも高い評判を呼びました。
撮影可能エリアにはパンテール(豹)はなく、タイガー(虎)モチーフのみの展示。カルティエにとってパンテールは門外不出、ということなのでしょうか…?
こちらも「タイガー」ネックレス 1986年
一方、実はジャンヌ・トゥーサンも、ルイ・カルティエの秘められたミューズであったと云われています。
第一次世界大戦のさ中に、ジャンヌは当時をときめくカルティエ一門の御曹司ルイ・カルティエとパリで出会いました。パンテールはもともと、ルイ・カルティエが彼女に与えた愛称(あだ名)。当時の女性には珍しく毛皮を好み、家中に毛皮が溢れていました。ルイ・カルティエは出会って間もないジャンヌに魅了され、オニキスとダイヤモンドで象ったパンテールをヴァニティーケースにあしらい、彼女のために自らデザインして贈ります。こうして2人の関係は個人的にも仕事の上でも深く結びついていきました。
第三章に併設されたカルティエのアーカイブを展示したコーナー「キャビネ・ドゥ・キュリオジテ(好奇心の部屋)」の中に、ルイ・カルティエとジャンヌ・トゥーサンが東アフリカのマサイ族居住区へ旅行した時の写真などを見ることができます。2人は結婚を望むも、しかし身分の差など超えられぬ壁からついに結ばれることはなく、1941年のルイ・カルティエの死が永遠に2人を分かつのです。
ルイ・カルティエが亡くなったあとも、ジャンヌ・トゥーサンはその生涯をカルティエに洗練と革新という基礎を築くことに捧げていきます。彼女は1976年に人生の幕を閉じる直前までカルティエにインスピレーションを与え続けました。
筆者はカルティエの象徴であるパンテールをめぐって大きな役割を果たした2人の女性が、ともに純粋な愛に生き、まったく異なる結末を迎えたことを知った時、深い感慨を抱きました。伝説的な作品の裏側で伝え続けられる愛のエピソードを胸に観覧すると、新たな視点から展示を楽しむことができるかもしれません。
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さて、お待たせいたしました!当店・ベティーロードにも、本展に展示されていてもおかしくない希少なカルティエの銘品がいくつもございます。展覧会の展示品と違い、購入可能な商品ですのでどうぞご注目くださいませ。(掲載の商品が売り切れとなった場合はご容赦ください)
大変希少性の高いカルティエ「アール・デコ」ウォッチです。搭載された極小のムーブメントは、後にジャガー・ルクルトとメーカー名を改めることになるEW&C「ヨーロピアンウォッチ&クロックカンパニー」のもの。 プラチナに297個のシングルカットダイヤモンドをセッティングした丸みのあるブレスレットのフォルムは、フランスパンのバゲットを思わせます。こちらの商品には2003年に発行されたカルティエの証明書が付属されています。
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18Kイエローゴールド素材に、贅沢に119石ものダイヤモンドをセッティングした光眩いテニスネックレスです。ダイヤモンドはトータル約12カラットはあるかと思われます。参考定価はなんと735万円(税抜)!
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インドを思わせる異国情緒に溢れる象のブローチ。可愛らしい象の体にはいくつものダイヤモンドがあしらわれ、象の装飾品にいたるまでしっかりとした芸術的な作りとなっております。
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カルティエのタイムレスな象徴、パンテールを象ったK18イエローゴールドの存在感たっぷりなブレスレット。豹の目にはツァボライトガーネット、鼻にはオニキスがあしらわれています。
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第二章でも取り上げたカルティエリーブルコレクションの1つ、タンククラッシュ。
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いかがでしたか?
「カルティエ、時の結晶」展は、冒頭に展示された本展の象徴、逆行する時計の傍らを通り過ぎた瞬間から、時間の不可逆性を忘れカルティエの世界観に深く没入していくことになります。
さまざまな色彩に輝く神秘的な宝石、それを最も美しい形へと昇華させる匠の技、まだ見ぬ異国への憧憬を掻き立てる情緒に満ちたデザイン、そして時代とともに変遷するクリエイションのスタイル…。
本展は、たとえ足を一歩も動かさずともインターネットを介して地球の裏側のことまで情報を得られてしまう現代に生きる私たちを、時空を超えた空間へと誘います。そして、そうでなかった時代の人々が初めてカルティエの比類なきジュエリーやクリエイションに触れた時の純粋なる感動を再現し、体験させてくれるのです。
会期は残りわずかとなりましたが、貴重な展示を見るまたとない機会。ぜひ観覧されてみてはいかがでしょうか?
ベティーロード(BETTYROAD)
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半個室の商談スペースもあり、小さなお子さま連れのお客さまもゆったりとご覧いただけます。お近くにお越しの際はぜひお立ち寄りください。
店内の在庫は常に変動しております。来店にて見たいモデルが決まっている場合、事前に店舗へ在庫を確認の上お越しいただくことをおすすめしております。