“アール・デコ”という言葉を耳にしたことがある方は多いと思います。
アール・デコは1920年代前後に隆盛したデザイン様式の1つで、こと腕時計に関していうと、実はアール・デコの影響を受けたモデルが1世紀を経た現在でも数多く存在しているのです。
では、アール・デコ調の腕時計とは具体的にどのようなデザインを指すのでしょうか?
そこで今回は、腕時計とアール・デコの密接な関わりについて解説。
まさにその時代に時を刻んだヴィンテージウォッチから、姿を変えることなく受け継がれている現代の名品モデルまで詳しくご紹介いたします。
この記事を読めば、「その時計、アール・デコ調のデザインでとてもおしゃれですね!」と、きっと堂々とコメントできるようになるでしょう。ぜひ最後までお付き合いください。
アール・デコは、装飾芸術「Art(芸術)+Déco(装飾)」という意味の造語。直線的、幾何学的なパターンを多用したデザイン、整った対称性、原色を対比させた色使いなどが特徴のデザイン様式です。
ピンとこない方は、レオナルド・ディカプリオが主演した映画『華麗なるギャツビー』を画像検索してみてください。ポスターの背景デザインや、出演者が記されたテキストのタイポグラフィーは、まさにアール・デコのデザイン。
アール・デコ期に流行したタイポグラフィーのイメージ
アール・デコは1910年代半ばのフランスで興り、1925年に開催されたパリ万博(現代産業装飾芸術国際博覧会)がきっかけで世界中で大流行します。その影響範囲は美術・工芸に留まらず、建築・工業・ファッション・インテリアなど多岐に渡りました。
なぜ、アール・デコは人々の生活全般を席巻するほどの一大ムーブメントになったのでしょうか?その理由は次項で詳しく触れたいと思います。
アール・デコと対比して語られることが多いデザイン様式に、アール・ヌーヴォーがあります。
アール・ヌーヴォーとアール・デコは同時代に前後して流行したスタイルですが、全く異なる特徴を持ちます。
アール・ヌーヴォーは新しい芸術「Art(芸術)+nouveau(新しい)」という意味の造語。1890年代から1900年代にかけて主流となったデザイン様式で、植物や動物をモチーフに、自然界に存在する有機的な曲線を組み合わせた流麗な印象の装飾芸術です。
熟練の技を必要とするような手工芸による細かな装飾が多く、優雅で独特な芸術性があります。
水晶付 麦穂文様 髪飾り
アール・ヌーヴォー期を代表するパリのジュエラー&エナメル細工師、ガイヤールによる1900年頃の作品
アール・ヌーヴォーを代表する画家、イラストレーターであったアルフォンス・ミュシャの手掛けたポスターは、誰もが一度は目にしたことがあるでしょう。また、エミール・ガレのきのこのランプなどもアール・ヌーヴォー期の工芸品です。
直線的かつ幾何学的なデザインであるアール・デコは、アール・ヌーヴォーの流行の直後に興ります。そして贅沢でロマンチックなアール・ヌーヴォーの軌跡を上書きするかのように隆盛していきました。
ダイヤモンド デマントイドガーネット パールネックレス
優美な曲線を描いた植物モチーフがデザインされた1900年頃のネックレス
アール・ヌーヴォーが製作に職人技を必要とする“1点物”のような作品であったのに対し、アール・デコの直線的・幾何学的かつ対称性のあるデザインは、工場の製造ラインで量産しやすく、近代的な工業製品と深く結びついていきます。
そのため、アール・デコは芸術分野だけでなく庶民の日用品にまで深く浸透し、人々のライフスタイル全般を席巻するほど大流行したのです。
アール・デコが花開いた1920年代は、実は腕時計が実用化され、一般社会へ普及し始めた時期でもありました。
腕時計のはじまりは、戦場の兵士たちがそれまで主流だった懐中時計を腕に括りつけたことだいわれています。そして第一次世界大戦後には、人々は日常生活における腕時計の至便さに気づき、一気に普及していきました。
ジラール・ペルゴ製の懐中時計。1880年にドイツ帝国海軍へジラール・ペルゴが腕時計を納品した記録が残っており、それは懐中時計の上下に簡易的なラグを取り付けたものだったといわれている
つまり、贅沢な装飾が施された美しい時計を所有することが一種のステータスだった時代から一般の人々の生活必需品へと変化していった時代と、アール・ヌーヴォーからアール・デコへデザインの流行が移行していった時代は、ぴたりと重なっていたのです。
機能的でスタイリッシュ、かつ工場での量産に向くアール・デコのデザインは腕時計と好相性で、次々と現代においても名品と呼ばれている時計が生み出されていきました。それが、アール・デコという文化が腕時計史の中で重要なポジションを占めるに至った所以といえるでしょう。
それでは、アール・デコを感じさせる腕時計の特徴を具体的に挙げてみたいと思います。
鉄道の線路を想起させるレイルウェイトラック
最もアール・デコ ウォッチらしい要素として、レイルウェイトラック(レイルウェイ分目盛り)を挙げる方は多いでしょう。
レイルウェイトラックとは、並行に走る2本のレールへ枕木を渡した線路のように表現されたミニッツマーカー(文字盤上に記されたの1分刻みの目盛り)のことです。シュマン・ド・フェール(フランス語で鉄道の意味)とも呼ばれます。
時分をより正確に知ることができる機能性とデザイン的な美しさが結びついたレイルウェイトラックは、腕時計とアール・デコの関係を端的に表しているディテールです。現在でもエレガントな腕時計によく採用されています。
1920年代の大変希少なカルティエ サントス・デュモン
現代的な腕時計としては世界初といわれるカルティエのサントス・デュモン ウォッチにも、このレイルウェイトラックがデザインされていました。以来、カルティエにおいてはメゾンを象徴するデザインコードとして、今日まで継承されています。
ルクルト社のレクタンギュラー ウォッチ。直線的なレクタンギュラーケースだけでなく、レイルウェイトラックや長方形のスモールセコンドなど、アール・デコらしい要素が溢れている
アール・デコの直線的・幾何学的なデザインは、腕時計のケースフォルムにも顕著に表れます。
それまで主流だった懐中時計は、ポケットから引き出す時に引っかからないよう、ラウンド(丸)型が普通でした。ところが、腕時計となったことでフォルムの制約が取り払われ、ラウンド型以外の時計が登場していきます。
先述したカルティエのサントス・デュモン ウォッチは、角に丸みを帯びた正方形をしていました。スクエアやレクタンギュラー(長方形)といった、アール・デコ期に多く見られる四角い時計は、人々にとって新しい時代の到来を感じさせるものだったといえるでしょう。
カルティエがトノー型のケースを生み出したのは、なんと1906年といわれている
レクタンギュラー型だけでなく、樽型のトノーケースやオクタゴンケースなど、これまでになかったさまざまなケースフォルムが登場します。このように、アール・デコの時代、腕時計の多様性は一気に広がりをみせたのです。
ゴージャスなアール・デコのジュエリーウォッチ。左から、クロトン、無銘、グリュエンのもので、アメリカで流通していたものが多く見られる
過剰な装飾を廃し、実用的でモダンなスタイルをめざしたアール・デコ。実は、女性用のジュエリーウォッチにおいては、アール・ヌーヴォーに負けないほどの装飾性を見せるものを、数多く見つけることができます。
幾何学的なパーツの表面を埋め尽くすようにセッティングされたダイヤモンドは、まさに贅沢の限りを尽くしたという印象。これまで説明してきたアール・デコとは少し矛盾を感じるかもしれません。
アール・デコ文化が力強く花開いた1920年代のアメリカは「狂騒の20年代」と呼ばれています。
好景気によって金銭的に豊かになった人々は、娯楽に身を浸すことで戦争で経験した恐怖を打ち消すかのように、毎晩パーティーに出かけるような享楽的な生活スタイルを好みました。
アール・デコのジュエリーウォッチは、そんな華やかなシーンで女性たちが身に着けていたものでもあるのでしょう。
これらのジュエリーウォッチには時計のケースサイドに細かい彫金が施されていることが多く、職人による手工芸的な側面を見せてくれます。
さらにこの彫金はアール・ヌーヴォーを思わせる植物紋様が見られ、異なる様式がミックスされた面白みを感じることができます。
ダイヤモンドとサファイアの対比が美しいカルティエのサンチュール
コントラストの強い色同士を対比させたデザインも、アール・デコによく見られるスタイルです。
ジュエリーウォッチにおいて、ダイヤモンドとサファイアやエメラルドなど色の濃い宝石を組み合わせる例がよく見られます。
カルティエ マストタンクのアール・デコ文字盤
シャネル 1932 アール・デコ Ref.H1184
カルティエのマストタンクやシャネルのアール・デコのように、後年になってアール・デコを現代的に再解釈した、アートのようなデザインも登場しています。
以上、アール・デコ期の腕時計に見られる主な要素をご紹介しました。これらの要素を複数併せ持つ腕時計は、アール・デコ調といって差し支えないと思います。
次項でご紹介する、当時実際に流通していた腕時計をご覧いただければ、より明確にアール・デコの腕時計をイメージしていただけるかもしれません。
ここからは、当店ベティーロードの貴重なアーカイブから、アール・デコという時代の息吹をまさにその身に纏ったヴィンテージウォッチをご紹介していきましょう。
1920~40年代当時の空気をその雰囲気にとどめている姿には、歴史的なロマンとある種の迫力すら感じられます。
グレート・ギャツビーに登場するフラッパー※たちが、奔放にパーティーに明け暮れたその腕に、実際に着けていた時計かも?そんな想像を楽しみながら、煌びやかなヴィンテージ アール・デコ ウォッチの数々をご覧ください。
※フラッパーとはそれまでの道徳的観念にとらわれず人生を謳歌した1920年代頃の“奔放な現代娘”を指します。ジャズを愛好し、真っ赤な口紅、ショートヘア、大胆なショートドレスなどが彼女たちの代名詞でした。
カルティエ アール・デコ ウォッチ(1920年代・フランス)
こちらは1920年代に製造されたカルティエのプラチナ製アール・デコ ウォッチ。まさにアール・デコ ウォッチの先駆的なモデルです。
レクタンギュラーケースの上下にはヘキサゴン(六角形)の大粒なダイヤモンドが配され、幾何学的なパーツを連結しています。
カルティエらしいローマンインデックスの文字盤も、当時のオリジナルのまま。EW&C社(後のジャガー・ルクルト)のムーブメントが搭載された、大変希少な1本です。
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ティファニー アール・デコ ウォッチ(1920年代・アメリカ)
こちらは1920年代に製造されたティファニーのアール・デコ ウォッチです。珍しいオクタゴン(八角形)ケースが採用され、ケースサイドと裏ぶたには職人による美しい彫金が施されています。
フランスからアメリカへ渡り、より煌びやかさを増したアメリカン アール・デコを体現するティファニーのアール・デコ ウォッチは、ヴィンテージウォッチ市場でも花形的な存在。
さすがティファニーといえるほど当時の職人技を見せつけるかのような逸品です。
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ヴァシュロン・コンスタンタン アール・デコ ウォッチ(1920年代・スイス)
こちらは1920代に製造されたヴァシュロン・コンスタンタンのアール・デコ ウォッチです。
ヴァシュロン・コンスタンタンは1755年に創業した最古の歴史を誇る時計メーカーで、世界三大時計ブランドの1つに数えられています。
ベゼルにはエナメル装飾で紋様が描かれており、ケースサイドには幾何学的な彫金が施されています。奇を衒わない伝統的なラウンドケースにアール・デコの要素を融合させた、純粋なウォッチメーカーの作品らしい1本です。
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オメガ アール・デコ ウォッチ(1930年代・スイス)
こちらは1930年代に製造されたオメガのアール・デコ ウォッチです。実用的な時計を数多く送り出しているオメガですが、このように手の込んだジュエリーウォッチも手掛けていました。
トノー型のケースに合わせてデザインされたレイルウェイトラックがユニークな文字盤は、当時のオリジナルのもの。
ラグからブレスレットにかけて幾何学的なパーツが組み合わされ、ケースサイドにもアール・デコ特有の装飾が施されています。プラチナが贅沢に用いられており、高貴な女性のために特別に誂えられたことが感じられる1本です。
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パテック フィリップ アール・デコ ウォッチ(1930年代・スイス)
こちらは1937年に製造されたパテック フィリップのアール・デコ ウォッチです。
世界三大時計ブランドの中でも最高峰として讃えられるパテック フィリップならではの品格ある1本。当時としては希少なピンクゴールド製で、シャープなレクタンギュラーケースとラグからブレスレットにかけてのまろやかな曲線を持つ幾何学パーツが、美しい対比を成しています。
メレダイヤとしては大粒のダイヤモンドが施されたパーツには、その輝きをより一層際立たせるようホワイトゴールドが用いられており、ディテールの作り込みも見事です。
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ハミルトン アール・デコ ウォッチ(1930年代・アメリカ)
こちらは1930年代に製造されたハミルトンのアール・デコ ウォッチです。
ハミルトンは1892年にアメリカで創業したウォッチメーカーで、現在でもアメリカを代表する人気時計ブランド。ヴィンテージにおいてはジュエリーウォッチも得意としており、アール・デコ スタイルのデザインも比較的多く流通しています。
こちらは贅沢なプラチナ製で、レクタンギュラーケースのベゼルと、リボンのようなデザインが個性的なラグにはダイヤモンドが散りばめられています。総アラビアインデックスとブルースチールの小さな針も実に可愛らしい印象です。
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ロレックス アール・デコ ウォッチ(1940年代・スイス)
こちらは1940年代に製造されたロレックスのアール・デコ ウォッチです。実用時計の王様であるロレックスも、当時は貴婦人のためにこのようなジュエリーウォッチを製造していました。
1940年代といえばアール・デコ様式はすでにその勢いを失っていましたが、こちらの時計にはその端正な様式美が凝縮され、流行とは関係のないところで普遍的な美しさを感じさせます。
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ブローバ アメリカンウォッチ(1950年代・アメリカ)
アーカイブの最後に、1950年代に製造されたブローバのアメリカン・ウォッチをご紹介しましょう。
アメリカンウォッチとは、1940~60年代頃のアメリカで流行したゴールドのレクタンギュラーウォッチのことで、“角金”とも呼ばれています。
ブローバは鉄道網の発達とともにシェアを拡大していったアメリカを代表する時計ブランドで、アメリカンウォッチも数多く製造していました。
直線的・幾何学的なダイヤルデザインには、アール・デコの美学がしっかりと息づいています。時計の機能美とアール・デコが結びつき、流行が終焉した後も継承されていることが感じられるのではないでしょうか。
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さて、ここまで時代を生きたアール・デコ ウォッチの希少なアーカイブをご覧いただきました。
数は少ないですが、当店ではヴィンテージ アール・デコ ウォッチが随時入荷しております。機会があればぜひお手にとり、歴史のロマンを感じてみてはいかがでしょうか。
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1940年頃には勢いを失ってしまったアール・デコですが、腕時計においては現代でも輝きを放ち続けています。
むしろ歴史あるウォッチメーカーたちによって様式美が熟成されるとともに、奥深さを増しているとさえいえるかもしれません。
ここからは、アール・デコのスタイルを受け継ぐ6つの名品時計に焦点を当ててご紹介したいと思います。
現代に受け継がれているアール・デコ ウォッチの名品といえば、真っ先にカルティエのタンク ルイ カルティエを挙げるべきでしょう。
1925年のパリ万国博覧会でアール・デコが大流行するずっと以前から、カルティエは先駆者としてアール・デコの様式美をメゾンのスタイルとして確立しはじめていました。
カリスマ経営者だった三代目ルイ・カルティエが最初のタンク ウォッチを考案したのは、1917年のことです。
1920年代に製造された、大変貴重なタンク ウォッチ
四角いレイルウェイ分目盛り、放射状にデザインされたスタイリッシュなローマンインデックス、第一次世界大戦を終結させるのに活躍した戦車(タンク)からインスピレーションを得たレクタンギュラーのケースフォルムなど、アール・デコ ウォッチの原点が見てとれます。
ルイ・カルティエ自身も愛用したタンクウォッチは、アール・デコのエレメントが腕時計の機能美と融合した黎明期の傑作であり、その後誕生することになる多くの腕時計デザインに影響を与えました。
こうしたアール・デコの要素は、タンクに限らず多くのカルティエ・ウォッチに少しずつ形を変えながら現代まで継承されています。なかでもその真髄を最も高い純度で受け継いでいるコレクションがタンク ルイ カルティエです。
誕生当時からほとんどデザインを変えていないだけでなく、ステンレスモデルをラインアップせず、プレシャスゴールドのみが使用を許されている点でも往年のスタイルを守り通しています。
一方で、クラシカルなデザインコードを現代的に再解釈し、アップデートを図ることにも余念のないカルティエ。どちらかといえば保守的な時計であるタンク ルイ カルティエにおいて、2021年、2022年と立て続けにアール・デコ デザインのダイヤルが登場し、新鮮な驚きを呼びました。
カルティエ タンク ルイ カルティエ LM Ref.WGTA0058
2021年に発表されたアール・デコ ダイヤルのモデル
カルティエ タンク ルイ カルティエ LM Ref.WGTA0093
2022年に発表されたアール・デコ ダイヤルのモデル
これらはもともとタンクウォッチの普及版だった、マストタンクのダイヤルバリエーションを基にアップデートされたもの。
レイルウェイ分目盛りやローマンインデックスは洗練されたゴールドカラーで再現され、カルティエにとってDNAの一部である赤や青のカラーを用いて永遠のエレガンスを表現しています。
オリジナルモデルと同様に手巻きの機械式ムーブメントを備えている点も、実にクラシカル。長い歴史の上に成り立つモデルだからこその特別感を感じさせる逸品です。
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次いでご紹介するのはジャガー・ルクルトのレベルソ。こちらもアール・デコ ウォッチを代表する傑作として、カルティエのタンクと双璧を成す存在です。
レベルソが誕生したのは、アール・デコ全盛期だった1931年のこと。そのデザインにはケースの上下へ並行に施されたゴドロン装飾やレイルウェイトラックなど、洗練されたアール・デコの様式美が随所に取り入れられています。
誕生初期の1930年代に製造されたステイブライト製のレベルソ。ゴドロン装飾やレイルウェイトラック、長方形のスモールセコンドなど、アール・デコの様式美が取り入れられている
「レベルソ(Reverso)」とはラテン語で「反転する」という意味。その名の通り、ケースを横にスライドさせて完全に裏返しにできる独創的な機構を備えているのが特徴です。
馬に乗って行う団体球技、ポロの試合中に着用しても壊れない時計の製造を依頼されたジャガー・ルクルトが、苦心の末生み出した時計でした。
ケースをスライドして回転させ、180度反転する仕組み
反転機構を叶えるために必然的にたどりついたレクタンギュラーケース。素材には過酷な状況下での使用に耐えるため、当時はまだ珍しかったステイブライト(12%のクロムを含む、ステンレススチールの先駆け)が採用されました。
機能とフォルムが融合して生み出された合理的なデザイン美は、まさにアール・デコ ウォッチの真骨頂ともいえます。
現在でもそのデザインは忠実に受け継がれているほか、レベルソの多くのモデルにおいて伝統的に機械式の手巻きムーブメントを搭載している点も、歴史的なモデルならではのこだわりといえるでしょう。(一部、クオーツのものもあります)
2016年にはレディースコレクションとしてレベルソ ワンが誕生。1930年代当時の女性用レベルソに採用されたケースの形から着想を得た細長いシルエットが特徴です。
伝統的なレベルソのデザインコードがよりモダンに再解釈され、まるでジュエリーのような印象を醸し出します。
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フランスに端を発したアール・デコの全く新しいスタイルは、1925年に開催されたパリ万博を訪れたアメリカ人たちを魅了し、以降アメリカに渡って独自の発展を極めることになります。
ニューヨーク5番街の界隈にはクライスラー・ビルディング、エンパイア・ステート・ビルディング、ロックフェラー・センターといったアール・デコ建築の摩天楼がそびえ立ち、ニューヨークはアール・デコの中心地として世界の文化をリードする都市になりました。
さて、そんなニューヨークの5番街にはハイブランドの旗艦店が数多く集まっていますが、そのなかでも顔ともいえる存在が、この地に本店を構えるアメリカのプレミアムジュエラー、ハリー・ウィンストン。
創業者のハリー・ウィンストンが前身であるプレミアム・ダイヤモンド社をニューヨーク5番街に設立したのは1920年のことです。アール・デコとともに急速な発展を遂げたニューヨークの都市そのものに、ハリー・ウィンストンの美学は大きな影響を受けてきました。
こちらはハリー・ウィンストンの代表的なレディースウォッチ コレクションであるアヴェニュー。5番街(フィフスアヴェニュー)にちなんで名付けられたアイコニックピースで、アール・デコのデザイン美学を存分に堪能することができます。
幾何学的な線で構成されたレクタンギュラーケースの上下には、ニューヨーク5番街本店のファサードからインスピレーションを受けたアーチモチーフが施され、美しい宝石によってデコレーションされています。
アヴェニューより一回り小ぶりなケースサイズのアヴェニューC ミニは日本で特に人気のラインアップ。20年代ニューヨークの煌びやかなスタイルに思いを馳せ、腕元で味わってみたい逸品です。
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【ハリー・ウィンストンの腕時計】美しさも技術も最高級のラグジュアリーウォッチ、お得に手に入れるには?
ブレゲの再来とも謳われる天才時計師フランク ミュラーによって、1992年に設立された同ブランド。トノウカーベックスとともに、その代表的なコレクションとして擁されているのがロングアイランドです。
ロングアイランドもハリー・ウィンストンのアヴェニューと同じく、1920年代のニューヨークを席巻したアール・デコにインスピレーションを得て誕生しました。
ニューヨークの南東部にはロングアイランドというアメリカ最大の島があります。1920年代当時、裕福なアメリカ人たちは週末になるとマンハッタンから橋で島に渡り、別荘で優雅な休日を楽しんでいました。
摩天楼がそびえる喧騒のマンハッタンと、それとは対照的にリラックスムード溢れる美しい島、それらを行き来するニューヨーカーたちの洗練された生活スタイルに想いを馳せ、アメリカン アール・デコを源泉とするデザインを纏って誕生したのがロングアイランドです。
アール・デコに典型的なレクタンギュラーケースは腕に沿うように湾曲し、より現代的な印象に。丸みを帯びたフォルムやサークル状のレイルウェイトラック、スタイリッシュなビザン数字インデックスはクラシックな風情に遊び心をプラスし、唯一無二のデザインを生み出しています。
壮麗なアメリカン アール・デコの薫りを燻らせつつもリラックスした服装に合わせやすい、肩ひじを張らずに楽しむことができる現代のアール・デコ ウォッチです。
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時計の世界において三大雲上ブランドの筆頭といわれ、時計愛好家から常に羨望の眼差しを集めるパテック フィリップから、1999年に登場した女性のためのウォッチコレクションがTwenty-4です。
パテック フィリップで唯一女性のためだけに作られたコレクションであること、ステンレスモデルをラインアップしており比較的手の届きやすい価格であることなどから、多くの女性に支持されています。
Twenty-4にインスピレーションを与えたゴンドーロのRef.4824(左)とRef.4825(右)
時計ケースからブレスレットまで流れるような直線状のフォルムが特徴的なそのデザインは、アール・デコの精神が詰まったパテック フィリップの歴史あるコレクション「ゴンドーロ」からインスピレーションを受けて誕生したもの。
現在はラウンド型もラインアップされていますが、Twenty-4といえばレクタンギュラーケースを連想する方が多いでしょう。
Twenty-4は単純な長方形型ではなく、ケースの左右にマンシェット型と呼ばれる腕帯を思わせる装飾が施されています。デコラティブとまではいかないまでもさりげない存在感が感じられ、主張し過ぎない控えめな美しさがかえって王者の貫禄を感じさせるようなデザインです。
登場から20年以上経った現在も人気が衰えることはないタイムレスな魅力を持つ、女性のためのアール・デコ ウォッチといえるでしょう。
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ここまでそうそうたるアール・デコの名品時計をご紹介してきましたが、最後にカジュアルに楽しめるハミルトンのアール・デコ ウォッチをご紹介しましょう。
ハミルトンは前項のヴィンテージアーカイブでもご紹介した通り、アメリカン アール・デコのラグジュアリーなジュエリーウォッチを多く送り出してきました。
そんな往年のデザインを現代のカクテルウォッチとして蘇らせたのが、アメリカンクラシックコレクションのレディ ハミルトン ヴィンテージです。
ゴールド素材はステンレスに、機械式の手巻きムーブメントは扱いやすいクオーツムーブメントに置き替えられ、往年の雰囲気が気軽に味わえる仕様になっています。
先に挙げたカルティエやハリー・ウィンストンなどジュエラー出身のブランドでこの辺りのモデルを再現しようとすると、ゴールド無垢素材や最上級のダイヤモンドを用い、サヴォアフェール(継承されてきた伝統の職人技術)が随所に散りばめられた、普通ではなかなか手が出ないようなラグジュアリーウォッチになってしまうと思われます。
その意味で、これほど良心的な価格で当時の気分を楽しめる1本というのは大変おすすめで、かつ他ブランドで探そうとしてもありそうでないデザインです。
しかも、ベゼルやケースサイドには職人による彫金を思わせる装飾がきちんと再現されており、ディテールへのこだわりもしっかり感じることができます。
アール・デコ ウォッチを手軽に楽しみたい方に、ぜひお手にとっていただきたい時計です。
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いかがでしたか?今回はアール・デコの腕時計についてくわしく解説いたしました。
1920年代から40年代にかけて大流行したアール・デコ。時計文化においては単なる一過性のデザインではなく、1つの確立されたスタイルとして現在でも存在感を見せています。
今後アール・デコは名だたる時計ブランドによってどのように継承されていくのでしょうか。きっとその先には新たな名品時計が誕生していくことでしょう。
ベティーロードではアール・デコの歴史的なヴィンテージウォッチから現代の名品モデルまで、幅広く取り扱っております。ぜひオンラインストアを覗いてみてください。
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店内の在庫は常に変動しております。来店にて見たいモデルが決まっている場合、事前に店舗へ在庫を確認の上お越しいただくことをおすすめしております。