筆者はさまざまなブランドの記事を執筆している中で、1つ気がついたことがあります。気がついたといっても、これまで当たり前のようで深く考えていなかったことに「そういえば…」とふと思い至っただけなのですが、それは当店で取り扱っている時計に“女性創業者”によるブランドがほとんどない、ということです。
高級腕時計を扱うようなハイブランドには数百年という長い歴史を誇る名門が多く、当時は女性が職に就き会社を興すような時代ではなかったため、当然といえば当然です。ましてや今日に至るまで、スイスを中心とする機械式時計産業は典型的な男性社会。そのせいか、先日ある記事の中でココ・シャネルの人生に触れた際に、“女性が始めたブランドならではの哲学”が今でもシャネルというブランドのモノづくりの根幹にあることを改めて感じ、新鮮さを覚えたのです。
シャネルと同じように、アパレル出身のブランドの中には当店が扱っていないだけで女性創業者による時計があるかもしれません。ですが、純粋なウォッチメーカーで女性が興したブランドというのはかなり稀有な存在です。
今回は、そんな稀有なブランドのお話をしましょう。腕時計の世界に生涯を捧げたある一人の女性の情熱から生まれた、女性による女性のためのラグジュアリーウォッチブランド、ベダ&カンパニー。その魅力的な腕時計の数々について、詳しく解説したいと思います。
ベダ&カンパニーは日本での知名度はそこまで高くありませんが、知る人ぞ知る魅力的な時計ブランドの1つ。まずはその歴史を振り返ってみましょう。
ベダ&カンパニーの創業は1996年。老舗がひしめく高級時計業界の中では比較的新しいブランドといえるでしょう。
創業者のシモーヌ・ベダは、1931年にスイス・ポラントリュイ近郊の小さな町で生まれました。15才の時には時計ケース工場の見習いになり、その3年後には本社の営業部へ異動。10年の経験を積んだ後、スイスの老舗ウォッチメーカーだったキャミー(CAMY)で働きはじめると、そこで時計職人のレイモンド・ウェイルと出会います。シモーヌは取締役となったレイモンドの右腕として、長年のキャリアを築いていくことになります。
1970年代に入ると時計業界をある激震が襲いました。それが世にいうクオーツショックです。日本のメーカーであるセイコーが発表したクオーツウォッチの急激な台頭により、スイスの機械式時計産業が壊滅的な打撃を受けると、シモーヌとレイモンドの所属会社であるキャミーも容赦なくその波に呑み込まれていきました。この危機の真っ只中で、スイスの機械式時計の素晴らしさを、絶やすことなくより多くの人々に伝えていくために、二人は1976年に独自の時計ブランド“レイモンド・ウェイル”を果敢に立ち上げたのです。
1870年頃に創業した老舗ブランドであるキャミーが時代の流れに逆らえず100年の歴史に終止符を打った一方で、2人の立ち上げた”レイモンド・ウェイル”はアフォーダブル・ラグジュアリー(手頃な贅沢の意。高級感を保ちつつ、価格はラグジュアリーブランドに比べると安いのが特徴)を標榜する独立系ウォッチメーカーとして、現在でもスイスで存在感を示しています。
”レイモンド・ウェイル”の成功をもってしても、シモーヌの時計への情熱は冷めることはありませんでした。スイスの機械式時計業界にキャリアを捧げてきた彼女の心のうちに常にあった思い、それは“男性が権勢を振るうこの業界は、世界の人口の半分を占める女性の需要を無視している”というものでした。多くのブランドはメンズウォッチをそのまま小型化してレディース用にも展開するという“メンズありき”のスタイルをとっている。それならば自分の残りの人生をつかって“女性による女性のためのラグジュアリーウォッチブランド”を立ち上げよう、そう決心したのです。シモーヌが65才の時のことでした。
彼女は”レイモンド・ウェイル”の自分の持ち株を売却して職を辞すると、1996年に息子のクリスチャンとともに自身の名を冠したブランド“ベダ&カンパニー(Bedat &Co)を立ち上げます。彼女は自身の手がける時計を500年に及ぶスイスの伝統を重んじて制作することを決意。時計業界では数少ない女性でありながら、主体性のある人柄から人望の厚かったシモーヌは、スイスの中でも最も優れた職人たちを集めることに成功したのです。ブランド名の”&カンパニー“には、彼女の意志に共鳴して協力してくれた職人たち抜きにはこのブランドは成しえなかったとの思いが込められています。
こうしてベダ&カンパニーはスイス最高の技術を以って、女性たちが根底で感じているニーズや憧れを商品へ具現化することに注力するという、当時にしては非常に珍しいブランドとしてそのスタートを切ったのです。
1997年にファーストコレクションとなるNo.3をバーゼルワールドで発表すると、その洗練されたデザインは瞬く間に反響を呼びます。その後続けざまにNo.7、No.1、No.8などの優れたコレクションを発表して成功を収めますが、2005年にブランドがグッチに買収されると、翌年シモーヌとクリスチャンの二人は経営を離れました。2009年からはLuxury consepts Inc.が買収し、創業当時のスピリッツを受け継ぎながらスイス高級時計として世界中に流通させることに成功しています。
女性ならではのモノづくりの視点が活かされたベダ&カンパニーの腕時計。今ではほとんどが他ブランドでも当たり前のように採用されているディテールですが、それだけシモーヌ・ベダの目の付け所が正しかったという証であるといえるでしょう。
ステンレススティールに初めてダイヤモンドをセットしたウォッチメーカーはベダ&カンパニーだといわれています。その原点は、全ての女性がダイヤモンドの上質な輝きをデイリーに楽めるように、という思いから。シモーヌ・ベダは当時は非常に難しいとされたこの硬い素材同士の組み合わせにこだわりました。衣服などを傷つけないように、そのセッティングは横から見てもとても滑らか。ベダ&カンパニーの時計の詩的な美しさは、このように高度なクラフティングと、繊細なデザインの融合により成り立っているのです。
ベダ&カンパニーのダイヤモンドは、選りすぐった最高品質の石のみを使用。クラリティはVVSからVSⅠ、カラーはFからGという、名だたるハイブランドがエンゲージリングに使用するダイヤモンドに遜色ない品質は、比類のないエレガントなデザインに神々しい輝きを添えてくれます。
ベダ&カンパニーの時計は快適に着けることができるよう細部にまでこだわりが発揮されています。手首に絶妙にフィットするようカーブを描いた時計ケース。“ミルマイユ”と呼ばれる細かいコマが編み込まれたような優雅なブレスレットは、しなやかな着け心地を実現しています。通常は時計ケースから飛び出す形で3時位置に配されるりゅうずも、ケースに埋め込まれるように一体感を持たせたデザインが特徴の“サムタッククラウン”を採用しており、女性がネイルを引っ掛けて傷つけないための配慮を忘れません。
”千(mille)のメッシュ(maille)”を意味するミルマイユブレスレット。組み合わされた細かいコマが動くたびに光を反射して輝く様子はジュエリーのように美しく、しかもしなやかでストレスフリーな着け心地を実現
ネイルを引っ掛けたり洋服の生地などを傷めないように配慮されたサムタッククラウン。サムタック(thumbtack)は画鋲や押しピンを意味する英語
どんな小さなディテールにも細心の配慮を注ぎ、そのこだわりを極限まで追求することで生みだされる、ベダ&カンパニーの美しい時計。それらを成しえるのは、常に進化を続ける技術的な革新です。
ベダ&カンパニーの1つ1つのタイムピースにはスイス原産地証明書(A.O.S.C.®)が付いています。これは、品質や企業倫理の究極の象徴であり、全ての部品がスイスメイドであり、全製作工程における技術水準を証明しているのです。
ベダ&カンパニーのコレクションネームは全て数字で表されており、それぞれのコレクションの特徴を表現しています。どのコレクションも共通しているのはアール・デコをベースにしたクラシカルで優雅なデザイン性です。
ところで、文字盤に配されたグラフィカルなローマ数字のインデックスで、8時部分だけがアラビア数字のようにデザインされていることにお気づきでしょうか。この8はブランドのロゴにもなっており、このブランドのさまざまなストーリーを象徴しています。
ベダ&カンパニーのブランドロゴは、シモーヌ・ベダとクリスチャン・ベダ、創業者である二人のベダのイニシャル”B”を背中合わせにしたアウトラインとなっており、これが数字の8のように見えることから、各タイムピースの8時位置に象徴的にデザインされています。さらにこの形は砂時計を象って時の流れを表しているとも、無限大∞を意味するともいわれ、ロゴから感じ取ることのできるさまざまなメッセージが、ベダのブランドイメージに深い奥行きを与えているのです。
さて、ここからはベダ&カンパニーの代表的なコレクションを紹介していきましょう。
No.3は1997年に発表されたベダの初めてのコレクションです。6時位置と12時位置がシェイプされた、優美なトノー型のデザインが特徴。数字の3は完璧、完全無欠を意味する数字であり、このモデルの「三位一体の完璧さ」を象徴しています。その完成度の高さからブランドのアイコンコレクションとして世界中の女性に愛用されています。
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2003年に発表された、3時位置と9時位置がシェイプされたスクエア型のコレクション。ケース内部に取り込まれたりゅうずのデザインが印象的です。数字の1は物事の始まりや出発点を象徴しています。自動巻きムーブメントを搭載しておりデイト表示付きは実用性も◎。ベダのユニセックスモデルという位置づけで、男女兼用で使える定番コレクションとして人気があります。
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ベダ&カンパニー No.1 一覧
No.8は2004年に発表されたオリジナリティー溢れるラウンド型のコレクション。さまざまなバリエーションが存在しますが、代表的なモデルはりゅうずガードがせり出し、りゅうずを完全に中に取り込んだデザイン。なんとなくカルティエのバロンブルーを思い起こさせますが、バロンブルーの発売は2007年。ベダのNo.8のほうがこのタイプのデザインの元祖だったといえそうです。
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ベダ&カンパニー No.8 一覧
No.2はユニークなオーバル型のコレクションです。数字の2は統合や出会いの象徴。2つのオーバルが織り成す独特のラインは「タイムレスな魅力」と「モダンなセンス」という、ブランドのフィロソフィーを兼ね備え、まるでジュエリーのような存在感のある時計です。
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ベダ&カンパニー No.2 一覧
いかがでしたか?
女性のための時計を突き詰めて丁寧に形にしてきたベダ&カンパニーの時計は、キャリアを重ねてきた女性の腕にこそ着けてほしい知性とエレガンスを兼ね備えた品格ウォッチ。メジャーブランドほど数は流通していませんが、だからこそ見つけたら手に取っていただきたい素晴らしい時計です。
ベダ&カンパニー以外にもベティーロードでは数多くのブランド腕時計を取り揃えています。ベティーロードでは中古も新品同様のクオリティーを実現することに注力しており、仕入れた商品は全てメーカーあるいは自社の提携工房にてフルメンテナンスを行っています。中古だから…と敬遠せず、是非一度専門店ならではのハイグレードな中古クオリティーを実感していただければと思います!
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